犬や猫の肺水腫は、なぜ起こるのでしょうか?肺水腫を発症する原因は様々です。
今回のお話は、犬や猫の肺水腫が起こる原因と動物看護師が肺水腫患者に対してどのような対応や管理をしなければいけないのか?経験や実際に体験した事を交えながらお話したいと思います。
肺水腫とは?
肺水腫とはどんな状態なのでしょうか?
肺水腫とは、肺に水が溜る状態を言います。肺水腫が進行すると肺が水浸しの状態で呼吸困難を引き起こし動物の命に関わる恐ろしい病気です。肺水腫の対応や処置は一刻を争う病気です。
肺水腫の原因・症状
肺水腫の原因として大きく2つに分けられます。
1つは心原性の肺水腫、もう一つは非心原性の肺水腫です。では、この2つの違いは何でしょう?
●心原性の肺水腫
心原性の肺水腫は、心臓に原因がある場合、何らかの障害が生じ心臓の役割であるポンプ機能が正常に機能しないことで血液循環が滞り水分が肺に漏れて起こる肺水腫です。
●非心原性の肺水腫
非心原性による肺水腫は、外傷、肺炎、肺血症など肺周辺の血管に何らかの障害が原因で血管から染み出した水分が溜って起こる肺水腫です。
どちらの肺水腫も呼吸困難や湿った咳の症状がでてチアノーゼに陥ります。肺水腫で苦しむ動物は「犬座姿勢」という体勢をとる特徴があります。犬座姿勢とは「おすわり」の状態です。肺水腫による呼吸困難によって「伏せ」の状態で座ることが出来ないのです。
特に緊急が必要な症状は下記の通りです。
▲呼吸促迫(呼吸が早い)
▲チアノーゼ(舌の色が紫もしくは白)
▲意識がない
▲湿った咳をしている
上記の症状が出ている場合は緊急な処置が必要です。まずは酸素吸入、酸素室の準備など迅速に行わなければ命に関わります。
肺水腫の治療法
肺水腫の治療は胸水や腹水のように胸やお腹に水が溜る場合と異なり肺に穿刺して行う除去は不可能です。治療よりも酸素マスクや酸素ボックスでの酸素吸入が優先されます。
獣医師は酸素吸入させながら血管確保・レントゲン検査・エコー検査・血液検査など慎重に行いながら原因を突き止めます。その場合、動物看護師は検査中、動物の状態を注意深く観察しながら急変に備えて処置の補助を行ってください。肺の水を除去するには利尿剤などの注射や点滴が必要になります。血管確保の際も、動物看護師は動物の保定に十分な配慮をし動物に負担が掛かりすぎないよう注意が必要です。動物は呼吸が苦しいため保定の際に暴れます。それを無理に押さえつけ過ぎるとショックを起こします。適度に力を緩めながら動物を宥めながら保定を行います。
肺水腫患者の管理
肺水腫の場合、殆どの動物は入院治療が必要になります。(ICU)酸素室が完備されている動物病院は24時間酸素室に動物を入れて利尿剤や強心剤など点滴治療をしながら治療します。利尿剤を使用する場合、動物は非常に喉が渇きます。そこで動物看護師が気をつけて欲しいことは、動物が新鮮な水が飲めるよう水の補給をこまめに行う事です。しかし水分制限指示のある入院患に関しては獣医師の指示に従ってください。
酸素室に入り利尿剤の効果が現われ、動物も楽に呼吸が出来るようになってくるでしょう。しかし油断は禁物です。肺水腫の原因によっては急変する事も多々あります。動物の些細な変化に気づけるよう動物看護師の観察力が重要となります。
まとめ
いかがでしたか?動物看護師の肺水腫患者に対する管理について参考になったでしょうか?
肺水腫の症状は、見た目では胸水などの病気と見分けが付きません。しかしどちらの疾患も緊急であることは間違いありません。
私が勤務していた動物病院では、獣医師が循環器専門であるため心臓疾患で通っている動物が多い病院でした。心臓疾患で肺水腫になり入院治療をしている動物も多かったです。一番気をつけていたことと言えば、入院の合間で酸素室から出し治療の経過や検査を行うときの動物の変化には最善の注意を払い急変に備え酸素マスクの準備や検査を行う時の保定には神経を使いました。それでも予期せぬ変化は多々ありました。エコー検査中に意識が無くなったり心肺停止したりと様々なトラブルを経験しました。治療の甲斐無く亡くなってしまう動物もたくさんいました。反対に治療にしっかり反応して肺の水も抜け、酸素から離脱できた動物もたくさん見てきました。
そして自分自身の愛犬も3匹、心原性の肺水腫で亡くしました。愛犬の死を経験し肺水腫がどれだけ動物にとって苦しいものか?飼い主として苦しむペットを見ている辛さは計り知れ無いことを痛感しました。それを経験したからこそ飼い主の立場に立ち同じ境遇で不安な飼い主に寄り添えたのかもしれません。
今現在、専門の業者からペット用の酸素室がレンタル出来るよになり、動物の在宅治療も進んでいます。それまで動物病院でのみ行われていた酸素吸入が自宅でできるようになったことで治療の選択肢が増え緩和ケアなどに役立てられています。

元動物看護師。20歳の時に、近くの動物病院へ動物看護師として就職。それから20年、動物病院でチーフ看護師をしていました。2015年3月、出産を気に、退職。現在は、子育てをしながら、新人看護師のためになる記事を執筆中。そして現在、10歳のシーズ、13歳のアメショを飼ってます。