動物も歯を磨かなかったり高齢になると歯垢が蓄積して歯石になります。人と同様、歯垢を放置すると歯周病や歯肉炎を引き起こします。その歯周病や歯肉炎が病気の引き金にもなってしまうのです。
近年、飼い主の意識向上に伴い様々なケアグッズが増え、その中でもペットのデンタルケアグッズはたくさんあります。
動物病院でも、医療処置として歯石除去を行った後にデンタルケアについて飼い主を指導したりパピーの頃から歯磨きに慣れてもらうように指導をする事もあります。
今回はデンタルケアや歯石除去について実際に取り組んでいたことや体験談を交えながらお話していきたいと思います。
パピーの頃から歯ブラシに慣れさせる
デンタルケアは仔犬・子猫の頃から口に飼い主の指や歯ブラシを入れる事から慣れさせる事がとても重要です。大人になって歯磨きをしようと始めても動物が受け入れることは難しいのです。
パピーの頃から飼い主の指にガーゼを巻いて口に入れたり、専用の歯ブラシを使って遊び感覚で慣れさせる方法が一番です。始めは歯ブラシを噛む事から慣れさせ徐々に歯磨きをしていくと受け入れてくれるようになります。
私が勤めていた動物病院では、初めての予防接種や健康診断で動物病院に来院した仔犬・子猫に歯磨きの必要性を飼い主とのコミュニケーション取りながら指導します。
歯石除去とは?
歯石除去とは、歯垢を放置することで蓄積した歯垢が歯を覆うように固まってしまう歯石をスケラーという超音波振動を使い固まった歯石を除去する方法です。この方法には全身麻酔を使用して行います。人の場合麻酔はかけません。しかし動物の場合、医療器具の音や動物病院という慣れない環境では暴れたり凶暴になるため安全に処置をする為には全身麻酔が必要なのです。
歯石除去を施す動物の9割以上が高齢です。
高齢の動物に麻酔をして歯石除去の処置を施すのはリスクを伴います。事前に血液検査や心電図検査など麻酔に耐えれる健康状態なのか?必ずチェックが必要です。
歯石を放置すると歯周病が悪化して犬歯(一番大きな歯)から菌が入り、眼下膿瘍といって眼と口の間の頬辺りに穴が空くという病気になってしまい、その穴が自壊して排膿します。そうなると動物にも痛みが出て患部を気にして床に擦りつけたり、前脚で掻いたりと悪化させてしまう場合があります。
眼下膿瘍の根治には、犬歯を抜歯しなくてはいけません。抜歯にも局所麻酔ではなく全身麻酔で処置をしなくてはいけません。歯石で覆われた歯の殆どが歯茎が下がり歯自体がグラグラと抜けそうな歯もたくさんあります。その歯は残さず抜歯した方が後々、動物にとっても違和感が残ったり痛みで食事取れなくなったりとデメリットばかりなので抜歯することが多いのが現状です。
眼下膿瘍という疾患だけではなく、歯周病菌が血液に入り、心臓・腎臓・肝臓に流れそれらの内臓疾患を発症してしまう可能性が高くなります。
歯石除去後のデンタルケア指導
歯石除去の処置を施した後は、歯石除去終了後に口腔内専用の研磨剤を使用し残っている歯を磨きます。超音波スケラーで歯石を取り除いた時に歯のエナメル質に傷を付けてしまい歯垢が付きやすくなったりすることを防ぐ為にも必ず行います。
高齢で歯石除去の処置をした場合には、歯が残って事が多いのですが、残された歯を今後きれいに維持為るためにも動物看護師からデンタルケア指導は重要です。
デンタルケア指導の取り組み
デンタルケア指導についての取り組みに関しては、院内で獣医師によるセミナー開催や院外で歯磨きケア商品など取り扱うメーカー主催のセミナーなど参加してデンタルケアの重要性やデンタルケアのやり方、指導方法など学ぶ方法もあります。
私が勤務していた動物病院では、獣医師やメーカー主催のセミナーを院内で行い学んだりスタッフ同士で話し合いケア用品のサンプル(歯磨き粉や歯ブラシ)を作り、仔犬・子猫から歯石除去を受けた高齢犬・猫に渡したり、その場で歯磨きのお手本を見せたりという取り組みを行っていました。その中でも動物看護師1名を「デンタルケア指導責任者」としデンタルケア商品の管理からサンプル作り、飼い主への指導ができる看護師を決めていました。もちろん他の動物看護師もデンタルケア指導が出来るよう率先してセミナーなど参加しみんなが指導できる知識は兼ね備えていました。
まとめ
いかがでしたか?動物看護師のデンタルケア指導について参考になったでしょうか?
歯石除去は全身麻酔や抜歯が必要な処置なので獣医師が行うのが殆どです。動物看護師は麻酔管理や獣医師が集中して処置が行えるよう獣医師の補助が必要です。
処置後、動物看護師からのデンタルケア指導やデンタルケア商品の説明など必要な知識はたくさんあります。歯石除去したらそれで終わりではありません。また高齢の動物に麻酔をかけて処置をしなくていいように、飼い主は日頃から自宅でのデンタルケアが重要な鍵となります。飼い主が率先してデンタルケアが出来るように動物看護師が指導を行える事が、一番だと私は思います。

元動物看護師。20歳の時に、近くの動物病院へ動物看護師として就職。それから20年、動物病院でチーフ看護師をしていました。2015年3月、出産を気に、退職。現在は、子育てをしながら、新人看護師のためになる記事を執筆中。そして現在、10歳のシーズ、13歳のアメショを飼ってます。