犬の中毒とは?
犬の体にとって不要あるいは有害な物質が体内に入ることで生理的な障害が起きる状態の事です。中毒を起こす物質は様々で、液体や気体、他の動物との接触や薬物による中毒。原因は様々です。
<食べ物や植物からの中毒>
食べ物による中毒は、人間が食べても問題ない物でも犬は中毒を起こすことがあります。代表的なのが「タマネギ中毒」です。
タマネギ・長ネギを含む料理の汁を与えただけでも犬は中毒を起こすのです。
<タマネギ中毒の症状>
犬はタマネギや長ネギなど(すき焼きの汁やみそ汁など)を食べてしまうと「溶血性貧血」を起こし様々な病状を示します。
●赤ブドウワインのような尿がでる
●貧血
●黄疸
●あらゆる粘膜が白くなる
●下痢・嘔吐
●脾臓が腫れる
これらの中毒症状はタマネギに含まれる化学物質「アリルプロピルジスルファイド」によって赤血球中のヘモグロビンが酸化し赤血球内にハインツ小体という物質が作られることが原因の一つです。赤血球が血液の中で溶けだし脾臓を破壊してしまう為、溶血性貧血を起こします。
<治療法>
赤血球が失われることで貧血が進行してしまうので症状が酷い場合は輸血を行い、同時に輸液を行い毒物を尿と一緒に体外に排出しながら増血させます。
<有毒な植物>
植物の中には動物が食べると中毒症状を引き起こす物が少なくはありません。
★アルカイド系の毒物を含む植物
タバコ(葉)=ニコチン
チョウセンアサガオ=アトロピン
トリカブト=アコニチン
★グリコシード系の毒物を含む植物
アセビ=アンドロメドトキシン
ジャガイモ(芽)=ソラニン
シャクナゲ=アンドロメドトキシン
レンゲツツジ=アンドロメドトキシン
スズラン=コンバラトキシン
フクジュソウ=アドニン
上記の植物の中で最も散歩コースでよく見かけるのが「アセビ」「レンゲツツジ」「シャクナゲ」というアンドロメドトキシンを含む植物についてお話します。
<アンドロメドトキシン中毒の症状>
犬がアセビの若芽や樹皮を食べると中毒を起こします。
★大量のよだれ
★嘔吐
★フラフラする
★鼓動が速くなる
★呼吸困難
アンドロメドトキシンは迷走神経中枢ぼ興奮・運動神経の麻痺を引き起こします。
<治療法>
硫酸アトロピンの注射や症状に合わせて対処療法を行います。
<薬品などによる中毒>
★殺虫剤による中毒
アブラムシやダニ・ケムシなどを駆除するために使用する殺虫剤には有機リン系の殺虫剤です。その他にもアリやナメクジ・ダンゴムシなどを駆除するためにはカルバメート系の殺虫剤を使用します。これらの薬物を犬が口にしたり吸ってしまうと中毒を起こします。
<症状>
★大量のよだれ
★下痢
★運動障害
★痙攣
★呼吸困難
<治療法>
有機リン系の中毒はアトロピンの投与と同時に、全身の痙攣がある場合はパム(PAM)を解毒剤として使用します。しかしカルバメート系の中毒の場合にパムを使用するとかえって毒性が増すので注意が必要です。
★除草剤による中毒
除草剤による中毒は、農薬中毒の一種です。
除草剤に使用されている薬物は、ピピリジニウム系・トリアジン系・尿素系・有機ヒ素系・フェノール系などがあり、薬物によっては犬や動物に対して強い毒性を示します。
<症状>
★嘔吐
★激しい腹痛
★血便
★呼吸困難
<治療法>
全身の痙攣や全身状態が悪い場合は、麻酔を使い胃洗浄を行う必要があります。長時間、静脈からの点滴は必須です。
★薬浴剤やノミ取り製剤による中毒
犬の皮膚病である疥癬虫や毛包虫などの治療で使用するクロルデンやリンデンなどの塩素を含む殺虫剤を使用します。それらの殺虫剤は薬浴剤として使用するため犬の皮膚から吸収されたり犬が体を舐めることによって中毒を引き起こします。
<症状>
★体の震え
★よだれ
★四肢の痙攣
★全身の痙攣
<治療法>
中毒症状が軽度のよだれであれば、解毒剤として硫酸アトロピンを投与し、犬の体に付着した薬浴剤を洗い流します。酷い痙攣を起こしている場合は鎮静剤や麻酔を使い胃洗浄を行います。犬がどれくらいの薬物を摂取したか?中毒を起こしてどれくらいの時間が経過しているか?によて犬の生死を分ける大きな問題だと言えるでしょう。
中毒を起こした時の注意点は?
中毒を起こした犬を診断する際には、摂取した薬物の種類を特定する必要があるので飼い主からの報告が治療において重要な鍵となります。その他にも中毒症状が出始めての経過時間を知る事も治療によい結果をもたらす情報なのです。
中毒の応急処置は?
犬が何かの物質を接種したことが疑われる場合は、商品の空箱などを動物病院に持参すると毒物を特定で早急に処置が行えるので有効です。自宅での応急処置として胃に入ってしまった薬物を吐かせる処置もありますが、処置に慣れていない場合や嘔吐物が詰まったり、誤嚥性肺炎などを引き起こす場合があります。中毒の治療は一刻を争うので応急処置に時間を費やすよりは、早急に動物病院へ搬送する方法が賢明だと思います。
当記事は動物看護師や飼い主向けに書き下ろしたものです。

某獣医系大学に6年間通い、晴れて獣医師になったとある新人獣医師です。某田舎の動物病院に勤務することになりましたが、病院内の掃除や器具の片付けなど雑用も多く、下積みが必要だということで耐えてますが、気晴らしにブログ等書いてます。看護師さんや、獣医学生の役に立てば幸いです。