体の表面(皮膚)の腫瘍
皮膚や皮下にできる腫瘍で、通常はシコリができますが、皮膚病の傷のように見えることもあります。
<症状>
皮膚や皮下組織などの体表にできた腫瘍は、多くの場合皮膚に触れるシコリとして感じられます。ただし腫瘍の種類によっては、人間の肉眼では皮膚病や潰瘍、外傷と区別できないことがあります。腫瘍の場合、通常の皮膚病に対する治療では治らないのが大きな特徴です。
体表の腫瘍には、良性のものと悪性のもの(ガン)があります。良性腫瘍では、腺種、脂肪腫、上皮腫などがあげられます。一方、悪性腫瘍では肥満細胞腫、腺がん、扁平上皮ガンなどがよく発生します。
~体表にできる主な腫瘍~
●腺腫(良性)
●脂肪腫(良性)
●上皮腫(良性)
●肥満細胞腫(悪性)
●腺ガン(悪性)
●扁平上皮ガン(悪性)
<診断・治療法>
診断方法は、腫瘍と疑われる場所に針を刺して吸い取った細胞を調べる(針生検)か、皮膚の組織の一部を採取して調べる(組織診断)ことによって腫瘍の種類を診断します。
治療法は、大きさが直径1㎝前後の早期の腫瘍であれば乳がんと同様に、周りの健康な皮膚を含めて大きく切除する手術によって殆どの腫瘍は完治します。
<早期発見方法>
早期発見の方法として、乳腺腫瘍の場合と同様に、5歳以上の犬を飼っている飼い主は、一ヶ月に一度、体を撫でてあげるついでに全身をくまなく触り、シコリがないか?調べるようにしてください。
口腔の腫瘍
歯ぐきや舌、口の中の粘膜などにも腫瘍はできます。犬は口を大きく開けることが多いので比較的、飼い主が見つけやすい腫瘍と言えるでしょう。
<症状>
口の中にシコリが生じます。また、物を食べにくそうにする、口臭がする、ヨダレがでる、口から出血するなどの症状を示します。
~口腔内にできる主な腫瘍~
●エプリス(良性)
●悪性黒色腫(悪性)
●扁平上皮ガン(悪性)
●線維肉腫(悪性)
<診断・治療法>
針生検または組織診断によって腫瘍の種類を判別します。また口の中にできるガンは顎の骨に広がることが多いので、レントゲン検査によって顎の骨も調べます。
治療法は悪性の場合、腫瘍だけを切除するだけでは治りません。命を救うためには、顎の骨を含めてガンを切除します。
<早期発見方法>
犬も中年になると歯石がたまります。動物病院で定期的な検診や歯石除去を受けたり、月に1度は大きく口を開けさせ歯ぐきや舌、扁桃などにシコリがないか調べます。
骨の腫瘍
骨の”ガン”(主に骨肉腫)は大型犬の前足に多く見られます。ガンにかかる平均年齢は7歳といわれていますが、2歳前後の犬にも発生します。
<症状>
足を引きずるなどの歩行の異常と足の腫れが見られます。主な腫瘍には良性腫瘍として”骨腫”、悪性腫瘍として”骨肉腫”及び”軟骨肉腫”があります。
~骨の主な腫瘍~
●骨腫(良性)
●骨肉腫(悪性)
●軟骨肉腫(悪性)
<診断・治療法>
診断方法は、レントゲン検査で骨の異常を確認すると共に、病変の一部を採取して病理組織学的な検査でガンの種類を調べます。
治療法は、骨の一部だけにガンができている早期の段階には、足の切断手術と術後の抗ガン剤などによる化学療法を行えば完治する可能性があります。早期に発見して骨を移植すれば、足を切断しなくても済む場合もあります。しかし命をを救う為には多くの場合、残念ながら足を切断しなければなりません。ガンが進行している場合、足の切断手術のみで1年後に生存している確率は10%です。しかし手術後に抗がん剤による治療を3回~6回行えば生存率は50%にまで上がります。
骨のガンは、病変部をそのまま放置しておくと、どんどん大きくなり、肺などに転移して犬を死に至らせることになります。
<早期発見方法>
歩き方に異常が見られたり、足首や骨の関節の周囲に生じた腫れが3日~4日以上にわたって治らなければ骨のガンである可能性があります。このような症状がある場合は、速やかに専門の診療を受けてください。2~3週間の遅れが命を左右します。
腹部の腫瘍
腹部の臓器(消化管、肝臓、膵臓、脾臓、腎臓、卵巣、子宮、膀胱)にも様々な腫瘍が発生します。犬は人間と違い、自覚症状を訴えることができない為、残念ながらこの部位の腫瘍は。進行してから獣医師の診断を受けることが多くなります。
<症状>
腫瘍ができた場所によって症状は様々ですが、以下のような症状が現れます。
●食欲の低下
●元気がなくなる
●体重が減る
●嘔吐や下痢
●排便・排尿困難
●お腹が膨らむ
膀胱ガンや直腸ガン、子宮ガンなどでは、血尿や血便、膣からのオリモノが見られることがあります。腫瘍の場合、通常の治療法では良くなりません。
~腹部の主な腫瘍~
●平滑筋腫(良性)
●胃がん(悪性)
●直腸ガン(悪性)
●肝臓ガン
<診断・治療法>
診断方法は血液検査やレントゲン検査、超音波診断、あるいは内視鏡検査などを行います。その結果、腫瘍を疑われる場合には、治療を兼ねて開腹し、確定診断を行います。
治療法は、ガンを切除し、その後は抗がん剤を与えるなど化学療法を行います。膀胱ガン、直腸ガン、子宮ガンなどは血尿や血便、膣からのオリモノがある為、飼い主が発見しやすく早期の手術によって治る例が多くあります。肝臓ガンや胃ガンなどは腫瘍がかなり大きくなってからガンと診断される為、多くの場合、手術でガンを完全に取り除くことは困難です。
<早期発見方法>
症状が現れてからでは遅いのが腹部のガンの特徴です。8歳を過ぎたら定期的な健康診断を行いましょう。
当記事は、動物看護師・飼い主向けに書き下ろしたものです。

某獣医系大学に6年間通い、晴れて獣医師になったとある新人獣医師です。某田舎の動物病院に勤務することになりましたが、病院内の掃除や器具の片付けなど雑用も多く、下積みが必要だということで耐えてますが、気晴らしにブログ等書いてます。看護師さんや、獣医学生の役に立てば幸いです。