犬も人と同様、様々な感覚をもち外界の情報を鋭敏にとらえることができます。この感覚の情報を処理してまとめているのが脳です。
脳は情報をまとめるだけではなく、神経を通じて体を動かす指令をだし体の働きをコントロールしています。歩いたり走ったり、物を食べたりという無意識的な行動はもちろん、心臓を動かしたり胃腸の働きも脳が調節しているのです。脳や神経は体の「司令塔」なので些細な異常があっても体全体に大きな影響を与えます。
犬の脳と神経のしくみについて
犬の神経系は大きく分けて4つあります。「大脳」「小脳」「脊髄」「末梢神経」です。
「大脳」
神経活動や知能、運動、視覚、聴覚などの感覚をつかさどっています。
「小脳」
体の各部をバランスよく動かす役割があり活発な動きをする犬にとって大切な役割をもつ部分です。
「脊髄」
脊髄は脳からでて脊椎の中を通っており、大脳や小脳からでる指令を体全体に伝える役割をします。
この部分に何かしらの障害がおこると四肢や内臓の働きに異常が現れます。末梢神経は、脊髄から枝分かれしており、脳や脊髄からの指令を実行する役割です、神経はとても繊細でわずかな障害でも大きな異常を体全体にひきおこします。
~脳の病気について~
▲てんかん発作▲
てんかん発作とは?突然脚を突っ張り、口から泡をふいて倒れたり、痙攣をおこすことをてんかん発作といいます。脳を作っているニューロン(神経細胞)に何らかの異常をきたした時におこります。犬は動物の中で最もよく発症します。
<症状>
てんかん発作では、犬の四肢が急に硬直して横に倒れます。体全身の筋肉が震えたり同時に意識がなくなり、口から泡をはきます。また、失禁や便を無意識に排泄させます。発作がおきている時間は、おおよそ30秒以内です。てんかん発作がおきた後、発作が再発せずにおさまる場合もあれば何度も繰り返すてんかん発作の場合もあります。後者は重責発作状態といい、生命にかかわる危険な状態です。
<原因>
普通のてんかん発作は、大脳の前脳と呼ばれる部分のニューロン(神経細胞)に変化が生じたときにおこります。ニューロンの変化は脳そのものの異常によっておきる場合と、それ以外の病気によって生じる場合があります。
前者は脳炎(脳の炎症)や脳腫瘍、脳の奇形、脳の損傷などがあげられます。後者は、低血糖症や肝臓疾患、腎臓疾患、低酸素症、低カルシウム血症、低マグネシウム血症などがあげられます。
脳に栄養を供給するのは血液ですが、その血液に異常をきたすと血液中に毒素が混じったり、ある種の物質が不足したり多すぎたりします。そのため、脳に毒素が入り込み十分な栄養がいきわたらなくなりニューロンに異常が生じます。またストレスや天候、環境の変化なども関係しているといわれています。てんかん発作には、原因がはっきりわからない特発性てんかんがありますが、特発性てんかん発作は、何らかの遺伝的要素が原因でおこるといわれています。1歳~3歳の時に発病することが多く、好発犬種としてあげられるのが、ジャーマン・シェパード・キースホンド、ビーグル、ダックスフントなどです。
<治療法>
てんかんの原因となっている病気が判明している場合はその治療を優先させます。特発性てんかんの治療には主に薬物療法を行います。
使用する薬は、「フェノバールビタール」「プリミドン」「フェニトレン」などの抗てんかん剤が用いられます。これらの薬は、犬の体質によって効果が異なります。また長期間使用することで効果が現れるものもあります。てんかん発作には日々のストレスや環境の変化、精神的な問題が関与していることが多くあるので原因を見極めながら薬物療法と合わせて対処することも大事です。
▲ジステンバー感染しよる神経障害▲
ジステンバーウイルスに感染すると、下痢や嘔吐などの消化器症状、咳や鼻汁などの呼吸器症状、それに加え痙攣などの神経症状が現れます。
<症状>
ジステンバーウイルス感染症の神経症状では通常、痙攣をおこし倒れ、泡を吐き失禁します。病気が進行するとこれらの症状が繰り返しおこります。次第に食欲がなくなり体力が落ち、四肢が麻痺したり頭部の一部が引きつり、いわゆるチック症状が現れます。
<原因>
ジステンバーウイルスの感染によって脳のニューロン(神経細胞)が侵されます。多くの場合、生後半年以内の犬が感染します。ジステンバーは、ワクチン接種を受けていても感染することがあります。その理由としてあげられるのが
●ワクチン接種の時期が適切ではなかった
●犬の免疫力が増強されなかった
などが考えられます。生後二ヶ月半以内にワクチン接種をしても多くは効果がありません。
<治療法>
残念ながら今現在の獣医医療では、完治させる治療法はありません。体力を保つ治療が主な治療になります。ジステンバーウイルスに感染して消化器症状や呼吸器症状が落ちついたとしてもチック症状や四肢の麻痺などの症状が後遺症として残ります。
当記事は、動物看護師・飼い主向けに書き下ろしたものです。

某獣医系大学に6年間通い、晴れて獣医師になったとある新人獣医師です。某田舎の動物病院に勤務することになりましたが、病院内の掃除や器具の片付けなど雑用も多く、下積みが必要だということで耐えてますが、気晴らしにブログ等書いてます。看護師さんや、獣医学生の役に立てば幸いです。