Contents
動物病院に雌犬が体調を崩したと来院した場合、一番に疑われる病気が「子宮蓄膿症」です。早期に避妊手術をする飼い主が増え、子宮関連の病気は減りつつありますが、子宮蓄膿症は早期治療が最も重要な命に関わる病気です。
犬の「子宮蓄膿症」の原因
●発情後の免疫力の低下
発情出血後、犬は人と違い妊娠していなくても、おっぱいが張る、母乳が出る、陰部が腫大して妊娠しているかのような状態になりやすい傾向にあります。
●子宮内への細菌の侵入
子宮蓄膿症の原因となる細菌の大部分は”大腸菌”で肛門周囲の菌が子宮へ入って感染することが多いといわれています。
犬は排泄後や発情出血の時など、自分で舐めて綺麗にしようとします。その時に肛門と陰部が近い事から細菌などが侵入しやすくなります。
●加齢
子宮蓄膿症は、基本的に高齢で6歳から未避妊の雌犬に発症するリスクが高い病気です。
しかし1歳という若い雌犬でも発症することもあるので全年齢、注意が必要です。
●交配の後
上記に記載している、1歳と若い年齢に発症する原因の一つとして、交配後に何らかの原因で細菌感染してしまうこともあります。
●入浴や海水浴の後(水遊びなど)
発情出血中や発情後などの入浴、海や川などでの水遊びも注意が必要です。
発情期(発情出血・発情後など)は免疫力の低下が起こるため、特に野外などでの水遊びは細菌が侵入しやすくなります。
入浴や野外での水遊びは発情時期は避けた方が良いでしょう。
子宮の中で大腸菌から出る毒素(エンドトキシン)が子宮内に広がることで腎不全や多臓器不全と犬の体全体に悪影響を及ぼし、
発見や治療が遅れてしまうと命に関わる怖い病気です。
犬の「子宮蓄膿症」の症状とは?
犬の子宮蓄膿症は初期の場合、ほとんどが無症状です。
次の項目の中で当てはまるものがあれば「子宮蓄膿症」の疑いがあります。
例)
●発情期(生理出血)終了後の数週間から2ヶ月以内に膿(血膿)のようなオリモノが出る
●食欲不振
●多飲・多尿
●嘔吐
●下痢(黒色便)
●腹部膨満
●外陰部の腫れ
これらの症状で、未避妊の雌犬で当てはまるものがあれば子宮蓄膿症の可能性が高いといえます。
中でも子宮の頸管が開いていれば子宮にたまった膿は外に排泄されるので、飼い主も気づきやすいですし、まだ症状として良い方です。
しかし、その頸管が閉じてしまっていると膿は外に排泄されず子宮内にどんどん膿や水が、たまってしまいます。その場合は、飼い主が愛犬の異変に気づくのが遅れてしまう場合もあります。
この症状を見逃し放置してしまうと尿毒症や腎不全など他の臓器にまで悪影響を及ぼし命に関わってしまう病気です。
犬の「子宮蓄膿症」の診断・治療法
犬の子宮蓄膿症の診断方法は、主に
●血液検査(赤血球・白血球・電解質・凝固系検査・生化学検査など)血液検査では、腎臓や肝臓などに影響を及ぼしていないかなど体全体の状態を把握します。
●レントゲン検査
腹部のレントゲンを撮影します。腹腔内で子宮がどれくらい膨らんでいるかを調べるのに必要な検査でもあり、同時に心肥大などの病気が隠れていないかもわかります。
●腹部超音波エコー検査
レントゲン検査と同じく子宮の大きさを確認するために必要な検査です。その他に他の臓器に異常がないかも確認できます。
犬の子宮蓄膿症の治療方法は
●内科的治療
比較的、犬も元気があり、食欲の低下などが見られない場合や、子宮の頸管が閉じておらず排膿(体の外に膿が出ている場合)している場合、早期に発見できたときは内科的に抗生剤や炎症を止める内服薬などを用いて治療することができます。
メリットとして自宅で治療ができるということ、デメリットとして再発のリスクがあること、内用薬が行き届くのに時間がかかるという事です。
●外科的治療
子宮蓄膿症の治療は一般に外科的に全身麻酔を施し膿が溜った子宮と同時に卵巣も摘出します。希に卵巣が正常な場合は卵巣を残す処置が行われますが、今後、卵巣腫瘍の病気を防ぐ為にも卵巣も一緒に摘出する事が多いのです。
中には外科的治療に向かない症状の場合もあります。それは、犬の全身状態が悪く全身麻酔を施すにはリスクが高い時です。
まず全身状態を、入院治療で点滴と一緒に抗生剤や炎症止めなどの注射治療を優先して体調を整えてから外科的に治療を行います。
しかし、全身状態が最悪の場合でも、一刻を争う状態の場合は、緊急手術として早期に子宮を取り除かなければならないこともあるでしょう。
犬の「子宮蓄膿症」の予防法
犬の子宮蓄膿症は、避妊手術によって確実に予防できます。
まとめ
子宮蓄膿症は、一般的に子宮に膿が貯まる場合が多いのですが、希に膿では無く水のような透明もしくは粘度の高いドロドロとした液が溜る”子宮水腫” “子宮粘液症”という病気もあります。
子宮水腫・子宮粘液症とは、無菌性の液が子宮内に貯まり子宮蓄膿症と同じように初期は無症状で子宮が膨らむことで膨満感による食欲減退などの症状が現われます。
子宮に貯まった物が膿なのか水腫なのかは、レントゲン検査や超音波エコー検査などでは区別がつきにくく、血液検査で炎症反応(CRP)を示す検査を実地して炎症性の子宮蓄膿症か子宮水腫(粘膜症)なのか判断をする必要があります。原因としては子宮蓄膿症のように黄体ホルモンによる発症を含め全てのホルモンバランスなど発症する要因があるため詳しい原因は不明です。

某獣医系大学に6年間通い、晴れて獣医師になったとある新人獣医師です。某田舎の動物病院に勤務することになりましたが、病院内の掃除や器具の片付けなど雑用も多く、下積みが必要だということで耐えてますが、気晴らしにブログ等書いてます。看護師さんや、獣医学生の役に立てば幸いです。