犬の歯と口腔のしくみについて
犬の口の内部(口腔)は、食べ物を食べるための重要な器官であり胃や腸を含む消化器の入り口でもあります。犬は口に入れた食べ物を強力な歯で噛み砕き、消化しやすくします。さらに口から唾液を分泌することで食べ物が食道の中をスムーズに運ばれ、胃に届くようにします。犬の歯(歯牙)の持つ重要な働きは食べ物を噛み砕くだけではなく、時として敵から自分の身を守る為の武器でもあります。相手に攻撃をされたとき、犬は鋭い犬歯と臼歯で身を守ります。犬の臼歯の殆どは、上部が尖ったノコギリ状の形になっています。犬は肉を食べる動物です。その特徴は鋭い犬歯と臼歯によく表れています。犬の顎は強い筋肉(咀嚼筋)があり、肉を切り裂く大きな力を持っています。
~唾液の働きについて~
口の粘膜からは常に唾液がでていますが、この唾液には、細菌やウイルスの感染を防ぐ免疫物質が含まれています。これによって、体内への感染や口の粘膜への感染をある程度防ぐことができます。体が弱ると、口の免疫の働きも低下します。その為、体調が悪い時の初期の症状が口内炎としてあらわれることもあります。
歯の病気について
歯周病
歯の周辺におこる病気を歯周病といいます。歯周病の初期では歯肉(歯ぐき)に炎症がおきる歯肉炎がおきます。症状が進行して歯の根元が損なわれたり、歯と歯ぐきの間の溝が深くなる状態を歯周炎といいます。
<症状>
初期の段階、歯肉炎程度では症状が分かりにくく、犬の口の中を見て歯肉の色の変化で発見されることがあります。歯肉炎が進んで、歯周炎になると歯の根元から膿がでるため口臭がひどくなります。犬の口臭が腐敗したような臭いがします。また歯の周りから出血することもあり痛みを生じます。さらに進行すると歯と歯肉の間の溝が深くなり(歯周ポケット)膿がたまり歯の根元がゆるくなり歯がグラグラするなどの症状がでます。
<原因>
歯周病の原因には、外傷(ケガ)と細菌の感染があげられます。犬が硬い物を噛んで口の中を傷つけたり、頭部に強い衝撃を受けたりすると歯肉に炎症がおこり歯肉炎になることがあります。一般にこのような外傷性の歯肉炎は重症化することは少なく自然に治ることがほとんどです。
細菌の感染の場合、その最大の原因は口の中の汚れです。食べカスや歯垢がたまるとその中にいる細菌が歯肉炎をおこし歯周炎になります。これが進むと、細菌は歯を支えている歯槽骨の組織を破壊しはじめ、歯肉から膿や血がでたり、歯がグラつくなどの歯周炎の症状があらわれます。また歯肉が縮んで歯がむき出しになることもあります。このような感染症の歯周の病気は、しばしば、重い全身的な少々を伴う臓器の病気をひきおこします。口の中で長期にわたって細菌の感染が続いていると、それらの細菌が歯肉から血管の中に入り込み、血液によって全身に運ばれるからです。細菌は、脳・腎臓・心臓・肺などの病気の原因となります。また犬が糖尿病にかかっていたり、ホルモンバランスが悪かったりすると歯周炎がおこりやすくなります。
<診断方法・治療法・予防法>
<診断方法>
歯肉の色や腫れ、退縮、壊死、潰瘍などの観察をします。必要に応じてレントゲン検査を行うこともあります。歯周ポケットの深さを測定したり病気の進行具合を調べます。これらの検査によって歯周病の初期段階なのか?歯肉炎が進行して歯周炎になっているかの診断ができます。歯周病が全身的な症状を引き起こしている場合や、糖尿病またはホルモン異常などによって歯周病がひきおこさたと考えられる場合は、血液検査で生化学検査と全血球検査を行います。その他にも炎症の部分の細胞をとって検査すると炎症の程度や、それが悪性の腫瘍かどうかの診断に役立ちます。
<治療法>
細菌による感染症を根本から治療することが優先されます。全身麻酔でスケラーという超音波を用いて歯石や歯垢を取り除きます。歯周病が原因で他の病気をひきおこしている場合や、糖尿病などが原因で歯周病になっている場合は、それらの病気の治療を行います。
<予防法>
歯周病は予防が大切です。犬の性格によっては歯磨きが困難な場合があります。普段から犬の口の中を触り慣れさせておくのも重要な鍵となるでしょう。
普段から慣れていれば、歯ブラシやガーゼなどを使って、食後に歯磨きをしたり歯肉の血行を良くするだけで十分な予防になります。口腔内を常に清潔にすることが重要です。
虫歯
犬の虫歯は少ないといわれていましたが、現在では口腔内の病気で約10%は虫歯が原因と考えられています。犬の虫歯は3歳~7歳によくみられ、特に老犬になればなるほど多く発症します。
<症状>
歯の色が変わり、その部分の組織がもろくなり穴が開いたり欠けたりします。犬の場合、歯肉の上や上下の噛み合わせ面が虫歯になりやすい部位です。虫歯の症状が進むと痛みがでたり口臭がひどくなります。
<原因>
犬の唾液の中には、食べ物のカスや、カビ、細菌などが含まれています。これらが唾液から分離して混ざり合い、ネバネバとした液状物に変化します。口の中を清潔にしないと、それらの歯の表面に付着して細菌の温床を作ります。これが歯垢です。歯垢の中の細菌の働きによって、食べ物に含まれる炭水化物から有機酸が作られます。有機酸は通常なら唾液によって薄められたり中和されるのですが、この場合、歯垢の中にあるためにそれがおこらず、直接歯の表面に接し、そこに濃縮されて残ります。
この酸によって、歯の表面の硬いエナメル質が侵され、エナメル質中の石灰塩が溶ける脱灰がおこります。脱灰によって歯がもろくなり穴が開くと。エナメル質の下の象牙質もただちに細菌の感染を受け、虫歯はいっそう歯の深部に向かって進行していき、ついには歯髄まで侵してしまいます。
<診断方法・治療法・予防法>
<診断方法>
歯の内部の虫歯の進行を知る為にレントゲン検査を行うことが重要です。
<治療法>
病変部のエナメル質と象牙質を削りとり、その後、充填して修復します。病果が歯髄まで進行している場合は、歯髄を取り除く処置が必要になることもあります。犬の場合は、虫歯の発見が遅れる傾向があります。その為、治療を開始する時にはすでに症状がかなり進行して、抜歯せざるおえないこともあります。
<予防法>
定期的に歯科検診を受けることと、常日頃、歯ブラシや、ガーゼなどを使って犬の口の中を清潔に保つことが虫歯を防ぐことができます。
当記事は、動物看護師・飼い主向けに書き下ろしたものです。

某獣医系大学に6年間通い、晴れて獣医師になったとある新人獣医師です。某田舎の動物病院に勤務することになりましたが、病院内の掃除や器具の片付けなど雑用も多く、下積みが必要だということで耐えてますが、気晴らしにブログ等書いてます。看護師さんや、獣医学生の役に立てば幸いです。