動物は人と同様、毎日、食べ物を消化して、生きる為のエネルギーに変えています。口から肛門までの一連の器官を消化器といいます。人は体調を崩すと消化器系に支障をきたすように犬も同じような理由で消化器の病気になります。犬は、よく嘔吐したり下痢をしたりすることも少なくはありません。
~犬の消化器のしくみについて~
消化器は食べ物を通過させながら消化する消化管と消化を助ける分泌物を出す付属器官に分けられます。
消化管とは、口から食道、胃、小腸、大腸をへて肛門に至るまでの一連の器官を指します。また付属器官とは、肝臓。胆のう、膵臓といった消化管の分泌腺を指します。犬が飲み込んだ食べ物は、食道を通り胃に送られます。胃で食べ物が一時的に蓄えらえ胃の働きで軟らかくされてから小腸へと運ばれます。小腸ではドロドロに消化された食べ物を通過させながら栄養を吸収し、その残りカスが大腸へと運ばれ肛門から便として排泄されます。
犬は雑食動物ですが、食べ物を丸飲みすることが多いため比較的大きな胃も持ち、消化しやすい肉が主食であったため、栄養を吸収する小腸が短いのです。
▲胃のしくみ▲
胃は食べ物をドロドロにして消化の準備をする器官です。胃液中からは胃酸と消化酵素が分泌されます。胃酸は強い塩酸で食べ物を溶かします。そのため、胃の内壁は胃酸に溶かされないように粘膜で覆われています。
▲小腸のしくみ▲
小腸は食べ物の栄養を吸収する器官です。小腸の最初の部分は十二指腸と呼ばれています。十二指腸には消化を助ける、すい液と胆汁を分泌する管があります。胆汁には脂肪を溶かす物質が含まれており、すい液には脂肪やたんぱく質、炭水化物などを分解する酵素が含まれています。小腸には絨毛とよばれる細かい突起がありこの絨毛が栄養を吸収します。
▲大腸のしくみ▲
大腸は盲腸、結腸、直腸の3つに分けられます。大腸の最初の部分が盲腸で大腸の最後の部分が直腸で肛門に繋がっています。大腸の大半を占めるのが結腸です。大腸は主に水と電解質を吸収します。また食べ物の残りカスを便に変える働きがあります。
▲肝臓・膵臓・胆嚢のしくみ▲
肝臓は体を毒物などから守る大切な臓器です。栄養は小腸から血液中に溶け込んで肝臓に運ばれます。肝臓はその中にある腫の毒物が含まれているとき、それらを解毒ぢて無害なものに変えることができます。栄養は肝臓を通過した後、初めて体内に運ばれます。
胆嚢から分泌される胆汁は脂肪をドロドロに溶かして消化を助ける液です。胆嚢は胆汁を濃縮して蓄えておき必要な時に消化管に送り出します。
膵臓はインスリンとよばれるホルモンとすい液を分泌する臓器です。すい液には脂肪やたんぱく質、炭水化物などえお分解する為の酵素が含まれています。
~食道の病気~
▲巨大食道症▲
巨大食道症とは、何らかの原因で食道が広がって大きくなった状態をいいます。食べ物を胃に送ろうとする食道の運動(蠕動運動・ぜんどううんどう)が止まります。
<症状>
主な症状は、食べた物や水を良く吐きます。巨大食道症になっている犬の約2/3は、食道から吐くときに食べ物の一部が肺に入り嚥下性の肺炎を起こすことが知られています。巨大食道症の主な死因はこの嚥下性肺炎によるものです。嚥下性肺炎を引き起こすと体重が減少したり呼吸困難、発熱、鼻汁、咳などの症状が現れます。
<原因>
巨大食道症は、あらゆる年齢の犬におこります。特に離乳して間もない仔犬によく見られる病気です。好発犬種としてあげられるのが、グレート・デーン、アイリッシュ・セッター、ジャーマン・シェパードのような大型犬です。また、ミニチュア・シュナウザーやワイヤーヘアード・フォックス・テリアはこの病気が遺伝することが分かっています。原因には病気で食道が大きくなる場合と、何らかの病気によって二次的に食道が大きくなる場合に分けられます。前者は、重症の筋無力症や多発性筋炎などの筋肉が弱くなる病気や、アジソン病などです。また食道内に異物が入りこむ、食道炎、食道が狭くなる(狭窄)、食道に腫瘍ができたり食道周辺の血管に異常がおきたり、食道の一部に膿がたまる(膿瘍)、食道が締め付けられるなどが原因となり食道が大きくなって蠕動運動が止まることがあります。
<診断方法・治療法>
診断方法として重要なのは胸部のレントゲン検査です。食道の拡張やガスがたまっていることがわかります。通常のレントゲン検査で分かりにくい場合、診断ができない場合は、バリウム造影検査が用いられます。バリウムにドックフードを混ぜて与えると正常な場合、バリウムが食道を通過して胃に入るまで3秒~4秒ほどしかかかりません。しかし巨大食道症のときはバリウムが食道に残っているのが確認できます。
<治療法>
完全な治療は困難です。食餌を注意して食べさせることによって嘔吐を防ぎます。その他に犬の前足を踏み台などにかけさせ頭を高い位置に上げて食餌を与えます。こうすれば重力に力を借りて食べ物を食道から胃に移動させる方法です。可能であれば食後、30分は頭を上げたままにしておくとより嘔吐を防ぐ効果があがります。小型犬であれば、犬を縦抱き(立たせた状態)すると良いでしょう。食餌は犬の犬種や大きさによって硬さや粒の大きさは異なります。ドックフードを水でふやかすことも消化の手助けになるでしょう。
当記事は、動物看護師・飼い主向けに書き下ろしたものです。

某獣医系大学に6年間通い、晴れて獣医師になったとある新人獣医師です。某田舎の動物病院に勤務することになりましたが、病院内の掃除や器具の片付けなど雑用も多く、下積みが必要だということで耐えてますが、気晴らしにブログ等書いてます。看護師さんや、獣医学生の役に立てば幸いです。