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犬の泌尿器の病気「腎不全」とは?

投稿日:2018年10月31日 更新日:

泌尿器とは?全身に流れている血液をろ過し、排泄物を尿として体外に排出する役割を持っています。排出するだけではなく、体に必要なミネラルや水分を再吸収して体内のバランスを保つ大事な臓器です。泌尿器は、「腎臓」「尿管」「膀胱」「尿道」が含まれています。今回は犬の「腎臓」についてお話します。

腎臓のしくみ

腎臓の血管は複数の細かい血管に枝分かれしていて腎臓の中の糸球体と呼ばれている部分でさらに細かい網状の血管になっています。この毛細血管がフィルターの役割をする膜(基低膜)で覆われています。血液が基底膜でろ過されることによって原尿(一番初めの尿)が作られ、糸球体から出た原尿は尿細管という細い管を流れている途中で尿管をとりまいている複数の血管が体に必要な水分や栄養素を取り込んだり排出したりして調節します。糸球体1個と尿細管1本を1セットでネフロンと呼びます。

犬の腎臓には約41万5000個のネフロンがあります。健康な時は、ネフロンの1/3だけで必要な役割を果たすことができますが、ネフロンが一度壊れてしまうと再生しないのでたくさんのスペアが存在しています。尿細管の尿は腎盂と呼ばれているろうと状の部分に集められ尿として排出されます。腎盂までが「腎臓」です。

犬の腎不全とは?

腎不全は高齢と共に機能が衰えた場合や腎臓そのものに異常が生じたとき、腎臓が正常であっても体の他の部分が病気になった事によって腎臓が正常に働かなくなるものもあります。「急性腎不全」と「慢性腎不全」です。どちらの症状も共通しています。

<急性腎不全とは?>

腎臓が急に機能を果たせなくなり、体にとって有害な物質を排泄できなくなることを急性腎不全といいます。

▲原因▲

急性腎不全の原因は様々です。腎臓自体に異常がある場合と腎臓以外の器官に異常が生じると腎臓が機能しない場合があります。腎臓自体に異常が生じた場合は、急性糸球体腎炎やネフローゼ症候群の場合に急性腎不全の症状が現れます。腎臓以外の器官に異常が生じた場合は、尿路結石症によって尿が体外に排泄できなくなることで急性腎不全になる事があります。

▲症状▲

●食欲の低下

●脱水

●嘔吐

●下痢

食欲が落ち、嘔吐や下痢を繰り返すことで脱水症状を起こします。老廃物を体外に排泄できないことによって「尿毒症」を引き起こし尿毒症が進行した場合は痙攣などの神経症状が現れます。

急性腎不全になるとタンパク質を代謝したときに作られる窒素化合物(非タンパク体窒素)をうまく排泄できず血液中の窒素濃度が上昇してしまうことで高窒素血症になります。また血液中のカリウムやカルシウム濃度が異常を現します(血液電解質の異常)。尿量の減少や無尿の状態に陥った場合は、高カリウム血症になり心臓に障害を起こすほどに危険なレベルまで進行してしまいます。その他にも血液が酸性に傾くことで代謝性アシドーシスになります。

▲治療法▲

急性腎不全の治療は、症状によって異なりますが、主な治療法は尿量を増やし体内の余分な窒素化合物を排泄させるために輸液療法を行います。輸液に用いる溶液には様々な種類があり、高カリウム血症を起こしている場合はカリウムの少ない溶液を使用します。また腎不全になると血液のPHが酸性に傾いているのでアルカリになるよう調節されているものを使用します。

また高窒素血症の場合は、人であれば人工透析が有効ですが、人工透析はそれなりの医療機械が必要です。犬の場合、腹腔内に潅流液を入れ一時間おきで潅流液を回収する方法があります。この方法は、1日4回~5回行わなければ効果があまり期待できません。その他に高窒素化合物を吸着させる薬物を犬に飲ませ便と一緒に高窒素化合物を体外に排泄させる方法があります。

<慢性腎不全とは?>

血液をろ過し尿を作るネフロンが少しずつ壊れ腎臓の機能を果たせなくなっていきます。急性腎不全とは異なり慢性腎不全はハッキリとした症状が現れるまでに時間がかかるのが特徴的です。症状が現れた時には治療が困難なこともあります。

▲原因▲

慢性糸球体腎炎、間質性腎炎、水腎症などの病気によってネフロンが少しずつ壊れていくことで腎臓の機能が果たせなくなります。

▲症状▲

慢性腎不全の症状は進行度合いによって差があります。主に食欲の低下に伴い痩せてくることが多いようです。

●食欲の低下

●体重の減少

●薄い尿をする

●多飲

●多尿

●嘔吐

●下痢

●貧血

慢性腎不全は急性腎不全とは異なり尿量が減少したり無尿になることはほとんどないため、高カルウム血症になることはありません。ただし病気の状態によっては脱塩利尿薬を長期間投与することで低カリウム血症を起こす場合があります。

慢腎不全では血液中のリン(IP)の濃度が高くなることがありますが、カルシウムが吸収されにくくなるので骨がもろくなることがあります(腎性骨異栄養症)。慢性腎不全の症状は時間をかけて進行しますが、最終的には急性腎不全と同様に腎臓のネフロンが全て機能しなくなり高窒素血症や尿毒症を引き起こします。

▲治療▲

慢性腎不全の治療は主に点滴と食事療法が中心となります。溶液も症状や血液検査の結果をもとに調節します。重要なのは毎日の食事療法です。タンパク質や塩分を制限した食事療法です。カロリー摂取も重要ですが体に必要な栄養素はバランス良く摂取しなければいけません。

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